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爺さん・馬・鴎外

うちの爺さん。吉田茂。齢八十六。 正月くらいしか改まって話をする機会のない爺さんとしゃべる。 僕は周りを圧倒してしまうほど機関銃のようにしゃべる人間だが、 つくづくこの爺さんの遺伝子を継いだのだと思い知る。 数年前いとこの結婚式で、孫達の誰よりも早く先陣をきって隣の テーブルの新婦友人と仲良くしゃべっていたのがこの爺さんである。 いい遺伝子だ。 戦中、兵隊で行った満州で馬の世話をしていたと言っていたので この前行った北海道の牧場へ今度一緒に行こうと話を向けてみたら、 爺さんの馬にまつわる逸話がほとばしってしまった。 満州、と言いつつ実は鴨緑江をはさんで北朝鮮にいたことをプロローグに 軍馬「松雪」の想い出をつらつらつら。 ひょっと爺さんが引用した鴎外の「うた日記」にある詩。 ことひ(手偏に賣)騾馬(らば) コトヒラバ 驢馬(ろば)常の馬(つねのうま)ロバツネノウマ ひとつ轅(ながえ)につながれて ヒトツナガエニツナガレテ 引く荷車の軋む(きしむ)音  ヒクニグルマノキシムオト  齢八十六ですが、※注、難漢字を含めて全暗記してます・・・ ※ことひ:優秀な馬の意 騾馬:♂驢馬と♀馬の交配種  常の馬:普通の馬  轅:荷車を引く馬につなぐ馬具 【解説】 鴎外は日露戦争に陸軍軍医局長として従軍したが、彼がみた凍った 大地を荷馬に引かれていく車の様子を歌っている。氷で固くしまった 地面の上で、車輪が軋むギリギリとものすごい音を、40年後の大陸で 爺さんも毎日のように聞いていた。そんな自分の想い出を鴎外の歌を 引き合いにして語る爺さんのインテリジェンスたるやなんたるものか。 爺さん、日本人なら「知性」と言え!などと言いそうなものであるが、おれも もう歳だから「フォロー」してもらわないと、とか外来カタカナ言葉を率先して 使い出す。 なんとも精神的に「ソフィスティケイト」された念頭恒例の『爺さん対決』。 毎年のことだけど、負け続け。 爺さんよ。おれが勝つまで往くなと言いたい。