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衰えるということ

20数年前。 よちよち歩く僕の手を引いて、日本橋高島屋を闊歩していた祖母。 5階のおもちゃ売り場で、LEGOの箱を小さな両手に抱えた僕の眼の その先にいつも彼女の笑顔はあった。 その髪はモザンビークの黒壇のように艶やかで。 その肌は伊勢の真珠のようになめらかで。 今、御年八十七を数える彼女の髪は絹の糸のように白く、 肌の皺は重ねた年輪というにふさわしく寄り重なる。 そんな祖母を連れて両親の元へ赴く。 数歩先がままならない彼女の年齢的な衰えは、目に見えて明らかだった。 僕は三十。 両親は六十。 今まで当たり前のように元気で、陰日なたなく僕を支え笑顔をくれた 祖父母、両親。彼らの存在が無限でないことを、少なからず思慮せざるを 得ない、そんな想いをふと抱えた。 僕はこれから彼らと迎える有限の時間にどう向き合っていくのだろうか。 これまで彼らの絶大な助力の元に築いてきた自己実現とは、自己の自己に 対するヘゲモニーの確立であると考えてきたけれど、如何に自分が小さな 自分の中で世界を創り上げてきたことか、思い及んだ。 広い世界に自己実現を求め、これからもその方向性に違いはないと思う けれど、僕にとっての基盤となる存在について思慮を巡らすそんな週末の ひとときを過ごした。 自分を育ててくれた家族。 自分がこれから育むであろう家族。 人生は果てしなく広く、されど限りなく近く、そして深い。