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読書記録 SS将校のアームチェア

 久しぶりの日本語読書。 SS将校のアームチェア (みすず書房) まさに歴史学者の面目躍如とでもいうべき傑作だと思います。学術的な文献調査とインタビューを積み重ねた大作ですが、論文調ではなくストーリーとして描かれているのですんなり読みやすいのも素晴らしい(訳も良い)。 「古いアームチェアを修理に出したところ、中から書類の束が見つかった。鉤十字の印があり、一見してナチの文書とわかるものだった。誰が、何のために隠したのか」 という話を偶然ポスドクの短期滞在先のパーティーでたまたま一緒になった人から聞いたところから調査が始まるという、なんともすごいセレンディピティも(研究にはやっぱりこういう雑談が欠かせないのよね、という話)。 個人的にすごく印象に残りつつ、そこまで一般化できるのかがちょっと気になったのは、南北戦争前後のアメリカから欧州に逆流したドイツ系移民が、人種差別的思想・習慣をナチズム興隆間際のドイツに持ち帰ったという視点(それがプロイセンから第一次大戦敗戦を経てドイツの人々の間にくすぶっていた他者・国への優越感情を過分に含むナショナリスティックな感覚と結合していった)。確かに主人公の系譜からはそういうことが分かるし、アメリカからドイツへ戻った移民の数がそれなりに多かったというところからの推論なのだけれど、どこまで一般化できるのか、というのは面白いと思いつつ気になったところでした。