行間や網目の間から感じることは書いておかないとならない

 パレスチナのことは、会社のレポートに書こうとしても基本的にどこにでも出ている陳腐な事実関係以外は東京がビビって出そうとしないのですが、当地で日々景色を眺めている立場から「感じること」ってあるんですよね。

アフガニスタンでは米軍が撤退してパワーバランスが崩れ、タリバンが政権を倒して全土を掌握しました。普通の人は疑問だと思うんですが、なんでアフガニスタンの山岳地帯に隠れていたタリバンがあれだけの武器(質というよりは量)と兵士を集められるのかと。原理主義の御旗があったとしても、日々の食事や消耗品など何千何万の群勢を養うにはカネが掛かりますし、山の中にいる兵士に誰がどこからどうやって武器弾薬を運んでいるのか、という当たり前に素朴な疑問です。そこは、カタールがカネを出し、時には幹部を匿って活動拠点をドーハに与え、パキスタン(情報部)が諸々サポートしている、という説明がなされるので、なるほどと思う方もいらっしゃると思います。

パレスチナも、歴史的経緯はともあれ、今見えている構図はほぼ同じです。これまで米欧と主要アラブ諸国に支えられてきた西岸のPLOファタハ中心の各派閥が持つ自治政府(イスラエルも彼らと交渉)と、カタールとイラン(革命防衛隊)が支えるハマス(およびイスラミックジハードなどの原理主義武装勢力)という形。現にハマスの政治部門のトップを含む複数の幹部は安全なドーハにいて、5月の紛争の時もヤバいガザにはいませんでした。唯一にして最大の違いは、アフガンから米軍は撤退しましたが、ここからイスラエルは絶対に撤退しないということです(だからプレーヤーが変わらない限りは半永久的にデッドロックなゲームなのです)。

陸続きで人っ子ひとりいない国境の山岳地帯が連なるアフガニスタンであれば、カタールのカネとパキスタンの黙認で武器や物資、そして戦士たちが往来することもできます。しかし三方を壁に囲まれ一方は地中海の海岸線で陸地が途絶、壁の二方をイスラエルが、最後の一方をエジプトが厳格に見張っていると言われるガザに、なんでハマスやイスラミックジハードの戦士たちが戦える武器や物資が届くのか。そもそもハマスの幹部たちはどうやって出入りしているのか。よく、地下トンネルからという話を聞きますし、実際そうなんでしょうが、ではそのトンネルの出入り口まで、誰がどこからどうやってモノを運んでくるのか、ということが気になるわけです。

有力な、というかおそらくそれしか可能性がない、という意味で確からしいのは、エジプト側のシナイ半島の砂漠と山岳地帯を通って、紅海からアカバ湾を経てイランから密輸された武器が運ばれて来るという話です。でもハマスはガザから出られません。きっと誰かが代わりにデリバリーをしています。

シナイ半島には、リビアの内戦からこぼれてきたISのフランチャイズグループがいて、タリバンのように砂漠と山岳地帯に隠れてゲリラをやっているのでエジプト軍も手を出せない、ナイル川を超えてカイロやその他の主要都市を攻撃して来るので、なんとかしたいのですが手をこまぬいている。そこに武装ベドウィンなんかも運賃をもらってフランチャイズと一緒に傭兵運び屋をやっているらしく、荒野では彼らには勝てないらしい。イスラエルは、自分たちではエジプト領に手を出せない(シリアやレバノンは平気で越境空爆するくせに)といって、協定ラインを超えたイスラエル領にほぼ近いエリアまでエジプト軍の航空機の作戦飛行を認めるなど、ISフランチャイズの撲滅に一見結構真剣です。

でも不思議なんですよね。仮に砂漠の民とフランチャイズが、肩で風切って壮大なシナイ半島を運び切ったとしても、最後の最後は結局トンネルなんですよね(ちなみにシナイ半島がどのくらい広大かイメージが欲しい方はアラビアのロレンスをお勧めします)。ルートの都合上どうしても運び込まれるのはエジプト側に作られたトンネルということにはなるのですが、イスラエルは自分たちの側の壁づたいにはカメラのついたドローンを飛ばし、機関砲を積んだ自動運転装甲車を走らせて24時間監視しているわけです。しかし、エジプトに協定ラインを超えた作戦飛行を認めるくらい運び屋摘発に真剣ならば、エジプト側に壁の下のトンネルを見張る技術供与をしてもよさそうなものですが、やっている風はない。あるいはドラマ「ファウダ」はちょっとリアリティに欠けるのですが(秘密のトンネルからジハード戦士がゾロゾロ出てきてイスラエル本国を攻撃する…)、実はトンネルを見つけるのは最新のテクノロジーを持ってしてもかなり難しいのかもしれない。衛星画像をAI解析したら、一発で人の出入りがある地点を特定できるんじゃないかと、素人目には思えるのですが。

そこでふと感じるのはイスラエルにとって、また近隣アラブ諸国にとってのハマス有用説なんですよね。いてくれた方がいい、と。「危機」があり続けることによる有益性というか。ここはほとんど直接の傍証がないので、感で補うのみなのですが、どうもイスラエルやエジプト、ヨルダンが自治政府と話している状況を見るに、パレスチナ分断の維持=現状維持というのが全体最適だと取られているんじゃないかなぁと。結局あちらを立てればこちらが立たずなのであれば(プレーヤーが変わらない限り)ゲームは変わらない。プレーヤーの変更とはハマスの強制排除かイスラエルの国家としての撤退なので、いずれも起きそうにない(前者をやろうとすると相当人が死ぬ)。

なのでガザは捨て石のように、これからも今と同じ状況が続いていくということなんでしょうね。

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