不動産屋、銀行、そしてIKEA(留学渡航編③)

あくる朝、9時30分きっかりに不動産屋へ出向く。泥のように眠り、犬のように目覚めた。寝た気が全くしないのは時差ぼけのせいではない。

不動産屋。出発の前日になっても一向に連絡が来ないため、「到着翌日の朝一番で行くがいいか?」とメールしたところ、「10時15分から別のアポがあるから9時30分に来てくれないと、その後は午後よ?」と、しれっとしたメールが来る。しかも即レスに近い速さで。

不動産屋の担当者はLisaというのですが、まあいい加減です。こういう条項を入れてほしい、というか但し書きでもいいから書いておいて、会社の手続きで必要だから、というようなことを言うとOK!やっときます!!などと言いながら、蓋を開けてみたらば最初のドラフトとなにも変わっていないバージョンが机の上に乗っかって僕の万年筆をかじろうとしている。「あの件、どこにも書いてくれてないよね」というと、「え?この中のどこかに書いてあるんじゃないの?私には分からないけど。」とか平気でのたまう。

「いやいや、あなた、事前に確認したときに追加しておいてね、とお願いして、了解!といったでしょう。それはどうしたんですか?できないならできないって前もって言ってくれないと困るんだけど。」とほとほと嫌になりながらももう一度だけ尋ねる。

ほぼスルー。目の前でスルー。ガン無視。もう厚顔無恥とかそういうのをはるかに通り越してすごいよね、ここまで来ると。

仕方がないので不動産屋は外して後ほど大家と直接話すことに。ここで払う仲介手数料って言うのは何のためのお金なんだろう。それでも日本の相場よりはずっと安いから、やる気でないのも分かるけれども。日本の仲介は本当にぼったくりだなぁ、などと考えているうちに鍵だけは出てきた。

さっそく家に向かう。一度下見に来たときに上った三階の物件。上に行くほどに階段が狭くなるヴィクトリア様式の建物。部屋の中は、まあ当たり前だが、すべてのものがなくなってがらんとしている。窓から差し込む、より正確に表現すれば、素手で殴りこんでくるくらい強烈な日差しだけが、フローリングの床をテカテカと照らしている。

早速当社比1.5倍のトランジットをアパートの前に回して、10個を超える段ボール群を運び上げる。死亡寸前。体を鍛えないと真剣にやばい。これはとても家具は運び上げられないな、と自覚。お金を払ってでも配送を頼むことを心に誓う。これに限らずお金でなんとかなることはあまりに多い。

その後、日本人的清潔感をむき出しにした妻の指示のもと、家中を掃除することに。能のない僕の担当は床磨き。20畳を超えるようなリビングとその半分くらいのベッドルームの木の床を雑巾がけです。驚くほど汚れが取れまして、すっかりピカピカになりました。裸足で歩き回るのが気持ちいい。妻の的確かつ迅速な采配と作業により、膨大な段ボール群は見る見るうちに姿を消し、整理整頓がなりました。毎度引越しのたびに思うことですが、彼女はほぼ1日ですべての段ボールを消し去る能力を持っているのです。すばらしい。


おかげで午後に銀行へ行くことができました。事前に調べていたネットの情報などによると、まず窓口に行くと予約を取れと言われ、やれ1週間後とか、3日後とかにもう一度来いと門前払いされるとあります。それでとにかくえらく待たされて、書類の不備などで追い返されて、、、とイギリスの銀行がいかに不遜でお客に不親切でひどいところか、という書き込みが枚挙に暇がなく、正直今日のところは良くて予約を取れるくらいだろうな、という気軽な気持ちで出向いたのです。

14時30分に大家のSteveが挨拶がてら来てくれることになっていて、銀行に行ったのは13時30分だったので、まあ1時間あれば予約くらいはとらせてもらえるだろうと、そんな感じで。

Lloyds TSB銀行Hove支店に行ってみました。Lloydsは比較的口座が開きやすい、という評判を聞いていたのと、家から比較的近い、というのと、本当にそんな程度の理由です。

入り口に、New Account Enquiriesと書いた看板があり、係らしいお兄ちゃんが座っていたので用件を告げると、「分かりました、では担当のものを呼びます。少しおかけになってお待ちください。」とても丁寧な対応でびっくり。

でもすぐに「出た、少し待て攻撃。これはけっこう待つんだろうなぁ・・・。」と悲観的な覚悟を決めてソファに座る。

と、ものの1分で妙齢の女性が現れる。「どうぞ二階へお上がりください。」

あれ?予約だけのはずなのになんだか妙な展開。Gillというその長身の、昔Miss High Schoolとかになったんじゃないか、という具合のエレガントな雰囲気の女性に、「階段上りはエクササイズにいいのよ、エレベーターもあるんだけど私はいつもこれね」とか言われながら二階の個室に通される。日本であれば、「いやいやエクササイズなんて、あなたにはそんな必要ないでしょう!」とか言って会話を盛り上げるところなのだけれど、ここではそんなことを言った瞬間にセクハラにもなりかねない、とこれまた言葉を飲み込む。こういうのが最初はとても疲れる。

さて、予約だけだったはずなのに。

G「ようこそLloydsへ。あなた口座が作りたいの?」

僕「はい、Sussex大学の修士にこれから入学するんですが、会社から給料やら家賃やらが送られてくるのでそのための口座が必要なのです。」

G「そう、それはいいわね!(ここからLovely連発)ではさっそく手続きを始めましょう。パスポート、住所を証明できる書類、大学からの入学証明書などなど、今もっていますか?」

僕「はい、いちおう持ってきました。(ネットで調べた甲斐あり)」

G「あら、すごいわね、よく調べたわね(ここでも形容詞はLovelyです)。」

僕「はい、けっこうがんばりました。(小学校の先生に褒められているような感じ)」

G「それじゃあとりあえずこれらのコピーを取らせてね、すぐに手続きすれば、今日中に口座ができるわよ。」


僕(心の声)は?予約を取って1週間後じゃないの?
「えっ!?本当ですか、それはうれしい!!ではこのあと14時30分から大家さんと約束があるので、一度帰ってまた来てもいいですか?」

G「ええ、大丈夫よ、私は今日の勤務は15時30分くらいまでなので、それまで戻ってきてくれればOKよ。」

なんだか、当日中に口座ができちゃいそうな雲行きに。

15時30分に戻ったところ、はたしてGillは本当に口座を作って待っていてくれました。口座とカードの使い方について簡単に説明を受けた後、彼女は借家の契約書も読み込んでいてくれて、家財保険に入っていないことを指摘され、月2000円くらいで入れて持っている家財全部を適当な補償額でカバーする保険を用意するから、それに入ったほうがいいわよ、というアドバイスまで。

もうブラボー!なんてLovelyなんだ、Lloyds Hove支店。もう営業だろうと何だろうと、家財保険入りますよ!!っていうノリでオプション購入しちゃいました。

その後家具を買いにクロイドンのIKEAまで行くために、もう眠くて疲れて死にそうになりながらもトランジットを転がしたのですが、銀行口座が作れるってだけでこれだけ幸せな気分にさせてくれるイギリス万歳!と思いながら何度もつりそうになる左足をさすってM23を疾走したのでした。


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